大判例

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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)225号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一ないし三及び四1の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決取消事由(請求の原因四2)について検討する。

1  右当事者間に争いのない請求の原因二及び四1の事実によれば、本願考案は、その構成(1)に示す従来公知のスライド板の欠点、すなわち垂直ローラは水平レールの上面に当接してスライド板を吊下げる状態で案内するから、スライド板の下方への移動は規制するが、スライド板を持ち上げる方向の力が作用するときには、これを阻止することができずスライド板が水平レールから浮き上がり、作動誤差の原因となるとの欠点を除去するため、構成(2)の「該スライド板上に、上下位置調整自在な垂直調整ローラを前記案内杆の天井枠部に対して当接可能に設けて前記垂直ローラを水平レール上に密着調整可能になした」との構成を採用した点にその特徴が存するものであること、本願考案の垂直調整ローラは垂直ローラを水平レールの上面に密着させスライド板の上下方向移動を規制する機能を有し、もつて、スライド板の作動誤差を除去する効果を奏するものであることが明らかである。

一方、第二、第三引用例に、審決がその理由の要点3において認定するとおり、水平ロールのほかに二種の垂直ローラを設け、この二種の垂直ローラで水平レールの表裏両面を密着挟持することによつて自在平行定規のスライド板の上下方向移動を規制する構成が開示されていることは当事者間に争いがない。この事実によると、右の垂直ローラのうち水平レールの裏面すなわち下面に当接する垂直ローラは、水平レールの表面すなわち上面に当接する垂直ローラを水平レールの上面に密着させスライド板の上下方向移動を規制する機能を有し、もつてスライド板の作動誤差を除去する効果を奏するものであることが認められる。

右によれば、水平レールの上面に当接してスライド板を案内する垂直ローラのみを有するスライド板の前示欠点を除去するために、右の垂直ローラを水平レールの上面に密着させてスライド板の上下方向移動を規制する機能を有するもう一種の垂直ローラを設ける構成はすでに第二、第三引用例に開示されており、その機能の点において、右の水平レールの下面に当接する垂直ローラが本願考案における垂直調整ローラに対応することは明らかである。

したがつて、本願考案の垂直調整ローラとこれに対応する第二、第三引用例の垂直ローラ(以下、この垂直ローラを「垂直調整ローラ」という。)との差異は、前者が案内杆の天井枠部下面に当接可能に設けられているのに対し、後者が水平レールの下面に当接して設けられていることにあり、当接可能に設けることのうちには当接して設けることが含まれるから、結局、右両者の差異は当接すべき箇所を天井枠部下面として設けるか、水平レール下面として設けるかの差異に帰着するというべきである。

そして、成立に争いのない甲第三、第四号証により認められる本願明細書及び図面(別紙第一図面)の記載、成立に争いのない甲第六号証により認められる第二引用例の考案の詳細な説明及び図面(別紙第三図面)及び成立に争いのない甲第七号証の一ないし三により認められる第三引用例の各記載によれば、垂直調整ローラを当接させるべき箇所は、その前示機能に照らし、水平レールと一体であり、かつ水平レールの上面と並行関係にある部材の下面であれば足りることが明らかである。このことは、前示甲第三号証により認められる本願考案の公告明細書の「垂直調整ローラ13は実施例の場合、案内杆1の天井枠部に当接せしめてあるか、構造上の余裕があれば例えばL字型枠体4の下面に当接するように構成して良いことも勿論である。」(同号証四欄一ないし五行)(ただし前示甲第四号証によれば、この記載は昭和五九年七月一八日の補正により削除された。)との記載が示すとおり、垂直調整ローラが当接すべき箇所として天井枠部とL字型枠体4の下面すなわち水平レール3の下面を技術的に同等のものとして挙げていたことからも裏付けられる。

このように、天井枠部と技術的に同等な水平レール下面に当接するように垂直調整ローラを設けることがすでに第二、第三引用例に開示されている以上、これを審決認定の構成を有すること当事者間に争いのない第一引用例のスライド板に適用し、垂直調整ローラを天井枠部に対して当接可能に設ける本願考案の構成に至ることは、当業者がきわめて容易にできる程度を出ないといわなければならず、また、その効果も予測の範囲を出ないものと認められる。。

2  原告は、本願考案の発想の転換があつて初めて天井枠部が本来の機能に水平レールの機能を併せ持つことになつた旨主張する。

しかし、成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例の図面(別紙第二図面)第2、第4図に示すスライド板において、案内杆の左右枠部は、天井枠部とともに門型の案内杆を構成するその本来の機能と共に、その内部を水平ローラを左右方向に拡張的に圧接させるべき垂直レールとしての機能を併せ持つものとして構成されていることが認められるところ、機械器具の一つの部材が二以上の機能を併せ持つことが稀でないことは明らかであるから、案内杆の枠部をローラが当接すべき部材とする技術思想は、右の事実から本願出願前すでに公知であつたと認められる。したがつて、天井枠部を垂直調整ローラが当接すべき部材として用いることに原告主張のような格別の発想の転換が必要であると認めることはできない。

3  原告はまた、本願考案のスライド板が門型案内杆の下側に吊下げ式に案内されるものであるのに対し、第二、第三引用例のスライド板は案内杆の上にまたがつて乗つた形態であることを理由に、第二、第三引用例の垂直調整ローラからは本願考案の垂直調整ローラに想到することはできない趣旨の主張をする。

しかし、原告が主張するような形態の差異があることとスライド板に持ち上げる方向の力が作用するときこれを阻止するため水平レール面に対して上方向に当接する垂直調整ローラを設ける必要があることとは技術的に関係があると認めるに足りる証拠はないから、原告の右主張は採用できない。

その他原告が第一ないし第三引用例について主張するところは、前叙説示に照らしいずれも理由がないことが明らかである。

4  以上のとおり、本願考案は、第一ないし第三引用例に基づいて当業者がきわめて容易に想到することができたものと認められるから、これと同旨の審決の判断は正当といわなければならない。その他審決にこれを取り消すべき違法の点は見当たらない。

三  よつて、原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕本願考案の実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。

(1)  製図板に固設した門型の横案内杆に対して縦案内杆を案内するスライド板又は門型の縦案内杆に対してスケール操作ヘツドを案内するスライド板に、複数個の水平ローラと垂直ローラとを設け、水平ローラを前記門型の案内杆の内部の垂直レールに当接せしめてスライド板の側方向の移動を規制すると共に垂直ローラを前記門型の案内杆の内部に設けた水平レールの上面に当接せしめてスライド板の上下方向移動を規制するようになしたスライド板において(以上の構成を、以下「構成(1)」という。)、該スライド板上に、上下位置調整自在な垂直調整ローラを前記案内杆の天井枠部に対して当接可能に設けて前記垂直ローラを水平レール上に密着調整可能になした自在平行定規におけるスライド板調整装置(同じく構成(2)という。)

(2)  実用新案登録請求の範囲第一項において、垂直調整ローラをスライド板に揺動自在に上下動する揺動部材に取付け、該揺動部材の揺動位置を調整するようになしたことを特徴とする自在平行定規におけるスライド板調整装置

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